牛と少年

風は大河をわたって吹いてきた
牛の毛をより黒く光らせなびかせた
少年の栗色に光る裸足の指先にさえ
風は通りました

よどみ うなり ふるえる川
あの岸辺の陸(おか)へ

ああ 草臥(くたび)れた………
牛たちはしみじみ思いました
尻尾が大きく弧を描くと
またゆっくりと
歩き始めました

牛の背伝いを跳ねる少年
もっと高く
どこまでもくり返し
超えてゆこう
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手帖に挟んでは見ていた1991年4月の新聞の切抜き記事が手元にある。それは南アジアをサイクロンが襲い大地と村が水没したと報じている。小さな海外の出来事ですが、私は、その状況を伝える1枚の写真に目を止めた。近郊の村が水に流され、水面を泳ぐ水牛の背伝いをわたる少年の姿が写っていた。
貧困の国と言われる南アジアのバングラディッシュ。たび重なる洪水に脅えるデルタ地帯。しかし雨季になるとヒマラヤ山脈から流れる河川では海老、魚を捕ることができ、肥沃な土は稲穂をたわわに実らせ「黄金のベンガル」と歌われている。厳しい環境の中で水と緑を愛する人たちや自然との共生、人間の営みの逞しさに思いを馳せる。

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