マロニエの並木道でシャンソンを聴く 其の三

またまた、本論に入る前に餅について寄り道をします。
親しくしているTさんは子どもの頃から否、ご先祖様の代から年の瀬に杵で餅をついている。7年前から私も加えてもらい、餅つきは正月準備の恒例となっている。
幼いころには、12月28日になると各家から杵音が聞こえて来た。当時は大家族のため五臼もつく家もあり、朝から夕方までの一家総出で力を合わせる年の瀬の行事だった。我が家では、母の実家で餅をつき父が杵を振り、母が間の手をいれ子どもらは周りを囲み手をたたきながら、つき上がる餅を楽しみに待っていた。つきたての餅は温かく柔らかい。きな粉や小豆あんをからめ、口にほうばると滑るように口の中に入っていく。年寄りも子ども家族全員が集まりそれは賑やかだった。その後、中学生の頃になると家で電機モーターの餅つき器を購入し、手軽にいつでも餅を食べられるようになった。
正月に始まり、小正月、桃の節句、八十八夜、さなぶり、お盆…………四季折々の祭事、暮らしの中に息づく餅文化。先人たち農民は、年貢の取り立てや冷害で手元に残るのはイルゴ(くず米、或いは未熟米)。イルゴを美味しく食べるために粉にして練り、雑穀や煮菜を混ぜたりした。魚沼地方では、あんぼ、焼く餅など冬の農閑期に作られた。餅料理は農民の知恵と工夫から生れたと言ってよいだろう。
これから作る「栃餅」は、栃食の文化が残っている豊かな森と清流が流れる地に限られる。四国から北海道までの険しい山間部では、共有林や栃の原生林が守られ、集落によって解禁日(山の口あけ)を決めている地域もある。今回、一緒に栃餅を作ったSさんは生れ育ちが宮崎県だから栃餅を食べたことがないし、栃の木も知らないと言っているのもうなずける。そのSさんの娘さんの嫁ぎ先は、鳥取県で義母が作った栃餅を送ってくれ大いに参考にしてもらった。
次回からいよいよ栃餅作りに移ります。
スタッフ

上の写真は、薪ストーブの上で蒸籠の中にもち米と栃を入れ蒸かしているところ。
餅つき前のひととき。

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