マロニエの並木道でシャンソンを聴く 其の四

今回から具体的に「栃餅」作りの体験を述べたいと思う。現在私の周りには、栃食を続け語り伝える人は見当たらなかった。たぶん先人たちは、知恵を出し合いながら工夫しシブ抜きをしたであろう栃食文化が途絶えてしまったことに寂しさを感じる。
実
昨年9月17日、栃の実を約30キロ拾う。自宅に持ち帰り、殻を落し実を網状の袋に入れ3日間流水に漬ける。水の中に入れることにより、実の中の害虫を駆除し、保存期間中の虫食いを防ぐ。
次に、秋の陽の光の恵みを利用し一ヶ月余り実を天日干しする。実は太陽の光をいっぱい浴び縮まり、とても固くなる。こんな時、ムシロを敷いて、栃の実を干したら良いだろうなあと思った。残念ながら我が家では、畳表のゴザで代用するしかなかった。ムシロで夏は木陰に、冬は日だまりに敷いて身体を涼めたり、遊んでいたのを思い出す。農家にはどの家にもあった。脱穀の時は庭一面に敷いて作業をし、米、豆、切干し大根、胡桃を干した。刈取りから乾燥まで機械がするからムシロの出番がなくなったのだろうか。収穫物に付いた泥は、ムシロで干すたびに拭われ、拭われた泥は編目にとどまり再び収穫物に付くことはなかった。また編目のワラの毛羽立ちがむらなく干上げてくれる。ブルーシートを使うと泥が落ちないばかりか水分の吸収も悪く、仕上がりもよくない。畳表は編目が密で浅く、泥が再付着する。天日干しには、ムシロに替わるものはないだろうし、先人の生活の知恵が隠れていることを知る。
さて、からからに干された栃の実は、そのまま10年余りも腐らないで保存できるそうだ。私は、年が明け立春すぎまで紙の箱に入れておいた。

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