映画監督市川崑さんを悼む

 13日夜、ラジオニュースで市川崑監督が亡くなられたことを知った。夕食の箸を休め、黒い毛糸の帽子とくわえタバコの監督の姿が急に浮んだ。
日本の高度経済成長の起点となった1960年代、小学校2年生の時に映画「東京オリンピック」を観た。年に2回の学校行事で巡回映画が体育館で上映されていた。64年に開催された東京オリンピックは、我が家に入ったばかりのテレビでいつも観戦し、教室でも話題になっていた。しかし、テレビ画面と、ステージのスクリーンに写し出される選手の姿は少年の目には明らかに違って見えた。110メートル障害種目に出場した女性選手の表情が、スクリーンいっぱいに映った時にスタート前の緊張感、積み重ねてきた誇り、吐く息、鼓動、顔の昂揚……それらが一気に少年の胸を支配した。マラソンを裸足で走り抜いたアベベ選手。彼のストイックな表情、狂いのない腕と足のリズム感、殉教者のような走りは今でも心に刻まれている。市川監督の「東京オリンピック」は、競技選手の持つ運動能力と、躍動する肉体の審美性が10才の少年の記憶に焼き付いている。監督、素晴らしい映画をありがとう!
心からご冥福を祈ります。

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