桑の実

親愛なるMaiへ
今日は、ワクワクした発見と素晴らしい体験の1本道を気持ち良いように風を切りながら疾走し、八色橋を渡ると浦佐天王町に入る。その入口右側に休耕地に桑の木があるのを数日前に発見したんだ。10数年通いなれているのにこれまで気付かなかったのはなんとも迂闊だった。自動車から自転車に切り替えたことによって、雲の流れや花の匂いなどの気候や季節の移り変りにとても敏感に感じるようになったと思う。さて、桑の実は今が食べごろ。周辺の住民の方もそのへんは熟知しているのだろう、木の周りには摘取った跡と下の薮草が靴で踏み固めてあった。用意していた広口ビンの中は数分で一杯になった。
Mai、今では八色原は、豊かな水田地帯になっているが、僕ら小学生の頃は鬱蒼とした薮原だった。ちょうど養蚕が盛んで、畑に桑の木を栽培していたのを記憶しているだろう。いつも一緒に桑畑に出かけてはフキの葉っぱの中に実を入れ、思いきり掌で絞り大きく開いた口の中へ注いだ桑の実の味を覚えているだろうか。ぼくは今朝、黒く熟した実を口に入れた。粒つぶした実を軽く歯で噛むと、甘味とほのかな酸味、野趣の味が口の中に広がった。“ナツカシイ”という味覚の記憶と感情。過去に浸るのは好まないけど、想い出がよみがえる体験というものは、何にも換え難い追体験だと思うし、人生の豊かさを知るのだ。
この桑の実を使って果実酒を仕込むつもりだ。ちょうど梅明けの頃に熟成されることだろう。Mai、オンザロックの桑の実酒で夏の宵に語るのも一考だと思う。

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休耕地の薮の脇に桑の木はある

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下から眺めると黒い実が熟していた

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夢中で採取していると果汁で指先が染まっていた

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数分で広口瓶一杯になる