万年筆

 万年筆がここへきて静かなブームになっているという。文字を書くのに筆記具からワープロ、ワープロからパソコンへと変わり、しかも読みやすく手軽に文書を作れるという便利さに慣れ親しんだ今、それに飽きてきた人達が、なめらかな万年筆の感触を再認識し、加えて個性を主張し出したのだろう…と、マスコミは解説している。
 私は10代の頃から万年筆で手紙やはがきを書いてきた。50代になった今でも変わらず万年筆の世話になっている。「万年筆の書き味が…」などと高尚な動機ではない。もっと切実な問題なのである。
 私は決して悪筆ではないと思うが(少なくとも自分ではそう思う…)かと言ってもちろん達筆でもない。でも手紙やはがきを書くとき、どうせなら相手に「上手いな」と感じてほしい。ボールペンでは文字の骨格がモロに出てしまってどうしても乱雑な書面になってしまうので、そこで、骨格をうまくごまかせる「極太万年筆」の出番となるわけである。はがきなどはあまりうまく書面がまとまらないが、便箋にしたためたとき「上手」そうに見えるところがいいのである。
 極太万年筆を使うコツは、速くササッと書くのではなく、漢字の一文字一文字を省略せず「へん」と「つくり」をしっかり書き込んでいくのである。そうするとかなり見ごたえのある書面になってくれる。イコール上手そうになってしまうのである。
 私の周りの人達は私が達筆だなどとは思っちゃいないし、むろん自分でも思っていない。しかし過去に私の手紙を受取った人達は、私が相当な達筆であると錯覚しているかもしれない。いや、是非そう願いたいものである。

mannenhitu